社会福祉に対するニーズは、すべての人が直面する可能性のある共通の困難や、多くの人に共有される課題に限られるものではありません。現実には、個々の事情や特定の社会的背景に根ざした、より個別的で複雑なニーズが数多く存在しています。
たとえば、長期にわたる失業や不安定な雇用状況、社会保険制度の対象とならない病気や重度の障害、入院中の子どもたちへの教育支援、親を失った子どもの養育、児童や高齢者への虐待、ホームレスや外国籍住民の健康・生活支援、知的・精神障害をもつ人々への投薬や金銭管理を含む日常支援、受刑者の社会復帰支援、差別や偏見による生活機会の制限、自然災害や事故による生活基盤の喪失などが挙げられます。こうした課題は、特定の個人や家族を困難に陥れるだけでなく、一定の地域や社会階層に集中して現れることも少なくありません。
社会福祉が「弱者支援」と呼ばれる背景には、これらのニーズが一部の人に限定された特殊な問題として捉えられてきた経緯があります。その理由の一つは、困難の原因が必ずしも平均的なライフサイクルの中で発生するものばかりではなく、社会的地位や地域格差に起因して偏在することにあります。たとえば、非正規雇用の人々や低所得層は失業のリスクが高く、また無理な労働環境に置かれた人ほど健康を損ないやすい傾向があります。
さらに、同じ困難に直面しても、その対応能力は個人や家族の社会的地位、地域資源の豊かさ、情報へのアクセスなどによって大きく左右されます。安定した職業や資産、情報ネットワークを持つ人々は、困難に直面しても自力で対応できる可能性が高い一方、日々の生活を維持するだけで精一杯の人々は、明日の生活さえ脅かされる状況に置かれがちです。
自然災害はその象徴的な例です。たとえば東日本大震災や阪神・淡路大震災では、被災直後には誰もが等しく困難に直面しましたが、復旧が進むにつれて格差が明確になりました。これは、災害前の社会的地位や地域資源の格差が再建過程に影響を与えた結果です。
また、社会的地位や地域の違いに加えて、個人や家族の価値観、社会関係、意思決定のあり方などによっても福祉ニーズは多様に現れます。日常的に友人や近隣とのつながりを持つ人と、孤立しがちな人とでは、困難への向き合い方も異なるでしょう。
このようなニーズは、しばしば特定の階層や集団に共通する課題として認識される場合があります。たとえば、長期失業者や非正規雇用層は、類似した社会的立場ゆえに共通の支援を必要とします。また、障害者やその家族が形成する当事者団体(セルフヘルプグループ)は、個別ニーズを共有し、集団として社会的アクションを起こすこともあります。
さらに、貧困が都市のスラムに集中する、エネルギー転換で雇用を失った炭鉱地域や過疎化が進む農村部など、地域全体の課題として福祉ニーズが顕在化するケースもあります。このような場合、地域ぐるみでの支援が求められるでしょう。
一方で、同じ地域や社会的階層に属していても、個々の人々が抱えるニーズには違いがあります。英国の都市人類学者スーザン・ウォルマンは、ロンドンのインナーシティに暮らす住民への聞き取り調査から、貧困層とひとくくりにされがちな人々の生活が実は極めて多様であることを明らかにしました。生活の充実度は、単なる収入や住宅といった「ハードな資源」だけでなく、時間の使い方、情報源、人間関係、自己認識といった「ソフトな資源」によっても左右されるという指摘は、福祉ニーズの把握において重要な視点を提供します。
このような背景から、社会福祉の援助は、集団や制度レベルのアプローチだけでなく、個人の生活状況に応じたソーシャルワークなどの個別支援を組み合わせて展開されてきました。福祉ニーズとは一律のものではなく、生活の構造、社会的な認識、そして個人の置かれた状況により、複雑かつ多様に現れるものなのです。
したがって、どのようなニーズを社会福祉の対象とみなすかは、時代や社会の合意によって変化していく可能性があります。そしてその合意のあり方次第で、社会福祉の方法や目標も大きく変わっていくことになるでしょう。
